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浦和地方裁判所 昭和46年(ヨ)331号 判決

申請人

小松千里

外五名

右申請人ら訴訟代理人

大野正男

外三名

被申請人

日本国有鉄道

右代表者

藤井松太郎

右訴訟代理人

環昌一

外八名

主文

申請人長島茂夫、同久下守がいずれも被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

被申請人は、申請人長島茂夫、同久下守に対し、昭和四六年七月一六日から本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り、月額別表(6)欄記載の各金員を仮に支払え。

申請人小松千里、同平井弘治、同長坂正昇、同岡田勲の申請はいずれも却下する。

申請費用のうち、申請人長島茂夫、同久下守と被申請人との間で生じた費用は被申請人の負担とし、その余は申請人小松千里、同平井弘治、同長坂正昇、同岡田勲の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  申請人ら

(一)  申請人らがいずれも被申請人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

(二)  被申請人は、申請人らに対し、昭和四六年七月一六日から本案判決に至るまで毎月二〇日限り、月額別表(6)欄記載の各金員を支払え。

(三)  申請費用は、被申請人の負担とする。

二  被申請人

(一)  申請人らの申請は、いずれも却下する。

(二)  申請費用は、申請人らの負担とする。

第二  当事者双方の主張

一  申請の理由

(一)  被保全権利

1 被申請人(以下において国鉄ともいう。)は、日本国有鉄道法に基いて設立された公共企業体であり、申請人らは、別表中(3)欄記載の日に雇用され被申請人の職員たる地位を有し、昭和四六年七月当時同表(4)欄記載の職にあつて、毎月二〇日ごとに同表(6)欄記載の賃金を受けていた者である。なお申請人らは、いずれも国鉄労働組合(以下単に国労という。)に所属し、右のころ同表(5)欄記載の同組合の役職にあつた。

2 被申請人は、申請人らに対し、昭和四六年七月一五日付で申請人らに公労法第一七条第一項に該当する行為があつたとして同法第一八条により解雇する旨の意思表示をなした。〈後略〉

理由

第一申請の理由(一)1、2の事実は当事者間に争いがない。

第二本件解雇の効力

一本件争議行為の実情

(一)  国労の闘争時の一般的組織形態

〈証拠〉によれば、次の事実が一応認められる。

1 国労は、国鉄労働組合員の生活と地位の向上をはかり、国鉄の業務を改善し、民主的国家の興隆に寄与することを目的とする単一労働組合であり、中央に最高決議機関として年一回召集される全国大会を、大会の補充機関として中央委員会を、大会または中央委員会の決議の執行機関として中央執行委員会(以下これらを総称して中央本部という。)を設けている。全国大会は、代議員及び中央委員が出席して開催されるが、代議員は地方本部毎に組合員六〇〇名につき一名の割合で選出され、中央委員は大会の際地方本部毎に代議員の互選によつて組合員三〇〇〇名につき一名の割合で選出される。中央委員会は、右中央委員及び役員、即ち中央執行委員長、副委員長、書記長及び中央執行委員によつて構成される。

又国労の下部機関として、国鉄の支社相当地域に対応するものとして地方における本部(全国六カ所)を、各鉄道管理局相当地域に対応するものとして地方本部(全国二七カ所)を、地方本部の中に地域あるいは職能に応じて支部(全国約三〇〇カ所)を、支部の中に職能、職場単位に応じて分会が設置されている。

右地方における本部は、その地方における団体交渉を行なう単位であり、地方本部間の調整指導を担当するとともに、それぞれの地域の特殊な問題について指令権を有する決議執行の機関であり、地方本部は、その地方における主たる行動と団体交渉の単位であるとともに、決議執行の機関であり、支部は決議執行の機関であり、分会はその職場の団体交渉の単位である。又右各下部機関には中央本部に準じて大会、委員会、執行委員会が設けられており、中央本部、地方本部、支部、分会はその順に上下の関係に立ち、それぞれ各上部機関の指令、指示に拘束される。

2 国労が闘争を行なうにあたつては、全国大会で原則的な方針を決定するが、全国大会ではあくまでも原則的な大部の方針を決定するにとどまり、その具体化は中央委員会が決定する。そして中央執行委員会が、大会または中央委員会の決議の範囲内でより具体的な闘争手段を決定し、下部機関に指令、伝達する。

中央執行委員会は、闘争手段の決定に資するため必要がある場合には、諮問機関として戦術委員会を設置する。右戦術委員会は、中央執行委員の主要メンバーで構成され、その委員長には中央本部の書記長があてられる。しかして戦術委員会は、必要に応じて地方本部の戦術委員長により構成される全国戦術委員長会議を招集し、戦術の大綱を示してそれに対する各地方の実情に照らした意見を聴取したうえ、中央執行委員会に闘争手段方法についての意見を具申する。

右のようにして決定された具体的な闘争手段は、中央執行委員会から地方における本部及び地方本部に、地方本部から支部に、支部から分会にそれぞれ伝達され、中央執行委員会以下の下部機関はその指令に拘束され、下部機関が独自の判断に基づきこれを変更することは許されない。但し、下部機関がその実情を考慮して指令にかかる戦術を変更する必要を認めた場合には、上部機関を通じて意見具申をなし、最終的に中央執行委員会で検討したうえ、同委員会で変更の必要性を認めた場合に、これを指令、指示という形で下部機関に伝達されることがあり、その限りにおいて中央執行委員会の指令が変更されることはある。

ところで、地方本部以下の下部機関は、中央執行委員会の指令の消化にあたるわけであるが、その目的遂行のため、地方本部にも中央本部と同様に戦術委員会が設置され、地方執行委員会の諮問にあたる。右戦術委員会の委員長には地方本部の執行委員長又は書記長があたり、右委員会は必要に応じて各支部の戦術委員会を招集して戦術委員長会議を開催する。又支部においても地方本部におけると同様の戦術委員会が設置されることがあるが、その場合に右委員会は支部執行委員会の主要メンバーで構成される。しかして分会においては戦術委員会が設けられることはない。そこで以上述べたところに敷衍して闘争実施に当つての地方本部、支部、分会毎の具体的な各関与の実情を述べれば次のとおりである。

(1) 地方本部

地方本部は、委員長または書記長が全国戦術委員長会議に参加して意見を述べるほか、闘争企画、立案に関与することはない。中央執行委員長からの闘争指令を受けると、諮問機関としての戦術委員会を設置し、更に各支部の戦術委員長と地方本部の戦術委員とからなる戦術委員長会議を開催し、指令の範囲内において具体的な闘争実施方法、例えば乗務員の説得をどこでやるか、その説得をどの支部に分担させるか、闘争に要する費用をどうするかなどについて検討し、かつ支部間の連絡調整を行なうとともに、これを各支部に伝達する。しかして闘争の目的、時間、場所等の主要な点については中央執行委員会で決定されるため、地方本部独自の立場からこれらを決定する余地はない。そして闘争の実施にあたつては地方本部の執行委員は、各支部又は分会に赴いて、現地における闘争の責任者となる。

(2) 支部

支部は、委員長又は書記長が地方本部の戦術委員長会議に出席して意見を述べることがあるほかは、地方本部独自の機関の討議に参加することはない。支部は地方本部からの指令、指示を分会に伝達し、戦術委員会を設置した支部においては、書記長を中心として主要な執行委員のメンバーにより構成される同委員会において、地方本部からの指令の範囲内で闘争実施のための具体的な方法、例えば職場大会の場所の選定、闘争参加者の食事の補給等の準備などについて検討する。支部独自で闘争の戦術上の配置を決める余地のないことは地方本部におけると同様である。又闘争の実施にあたり支部の役員が決められた拠点、分会に赴き、現地における闘争の責任者となり、指令の完全消化のために現地において組合員の説得あるいは集会に参加するなどして情報の伝達等をおこなう。

(3) 分会

分会においては、支部において分会長会議が開かれることがあり、その場合には分会執行委員長が右会議に出席する。しかして右会議は支部ないしは上部機関の指示、伝達、分会の情勢の報告等が行なわれる主として伝達を目的とした機関である。分会においては闘争に関し独自に決定することはなく、分会役員は、上部機関からの指令、指示に従うほか、派遣された地方本部又は支部の役員の指示によつて行動しなければならない。ただ説得する者を誰にするか、どこの地点に説得者を集めるかなどにつき分会段階で協議することはあるが、それもたてまえ上は支部の役員に参考意見として供するに過ぎないものとされている。

(二)  本件争議行為に至る経過

1 第三一回定期全国大会から第九三回春闘総決起拡大中央委員会まで次の事実はいずれも当事者間に争いがない。

(1) 第三一回定期全国大会

国労は、昭和四五年七月二七日から同月三一日にかけて、長崎市公会堂において、第三一回定期全国大会を開催し、同大会において大幅賃上げを中心とする賃金関係諸要求を実現する闘いとして「七一年春闘においては、公労委依存や活用を考えず、ストライキにより『青空闘争』を実施する」旨の方針を決定した。

(2) 右全国大会の決定方針に基づき、次のとおり中央委員会が開催され、七一年春闘の闘争の大綱が決せられた。

(イ) 第九一回中央委員会

昭和四五年一〇月二九日、三〇日の両日東京都内国労会館において第九一回中央委員会が開催され、「七〇年春闘の反省として、粘り強くストライキで闘うという態勢づくりが必要であること、要求づくりの段階における取りくみが不充分であること、賃金と合理化は絶対に切り離すこと、第三者機関の依存傾向の克服などをあげたが、七一年春闘では、これらを全面的に克服して闘うために、当面明年早々にむけて、要求額決定と闘いの取りくみ方について徹底的に職場討議を深め、要求づくりの段階における取りくみを強化していく」旨を決定した。

(ロ) 第九二回拡大中央委員会

次いで昭和四六年二月二四日、二五日の両日、尾道市公会堂において開催された第九二回拡大中央委員会は、七一年春闘にむけての闘いの目標として、「大幅賃上げを獲得し、同時に配分の決着をはかる、当面の合理化計画に反対し、基本要求、職場要求を前進させる、生産性運動を徹底的に粉砕し、不当差別を排除し、不当労働行為を糾弾して組織の確立を積極的に進める」ことを決定した。

(ハ) 第九三回春闘総決起拡大中央委員会

昭和四六年三月一八日東京都内国労会館において開催された第九三回春闘総決起拡大中央委員会は、当面の闘争計画として、「七一年春闘は一人一人の組合員が大幅賃上げを勝ちとるまでストライキで闘う方針を決め、全職場にストライキを実行することを中心として、線区別に効果的に配置する、従つて、従来のような拠点主義はとらず、あらかじめストライキ実施予定期日とストライキの実施内容を指令し、決行指令は政府や当局の出方をみて中央執行委員会が発するようにする(中央執行委員会が発するとの点については〈証拠〉によりこれを認める。)、そして五月上旬から中旬にかけて全一日のストライキを実施する、動労とは共闘委員会を設置し、完全共闘で闘う。」などの戦術設定を決定するとともに、七一年春闘の賃上げ要求につき、第九二回拡大中央委員会で提案されていた次の新賃金要求を最終的に決定した(新賃金要求に関する事実は、当事者間に争いのない事実、及び〈証拠〉により一応認める。)。

国鉄労働者の賃金を組合員一人平均月額一九、〇〇〇円引き上げること。

引き上げ額の分配をつぎによりおこなうこと。

各人の基本給額に一五、〇〇〇円プラス基本給額の六%を乗じた額を加えること。

最低賃金を四五、〇〇〇円とし、一八才高校卒労働者の賃金は四八、六〇〇円とすること。

臨時労働者の賃金最低日額を一、八〇〇円とすること。

以上を昭和四六年四月一日から実施すること。

(3) 一方地方における本部以下の下部機関においても次の如き各決定がなされた。

(イ) 関東本部関係

昭和四五年一〇月二六、二七日の両日、茨城県水戸市大洗閣において開催された関東本部第一五回定期委員会は、大幅賃上げを中心とする闘いとして、「賃金要求づくりについては、機械的な取りくみから脱却して、徹底した職場討議により、要求額の決定、配分の骨格をはじめ、青闘における基本的な闘い方、具体的戦術、春闘に対する態度などを含め決定するようにしていく、地域、地区指定のストライキ戦術について徹底した討議を深め、七一年春闘は、公労委をあてにせず、自主解決の路線にそつて、青空で闘うといつた姿勢に立つて、いまからその討議を深め、準備をする。」などの運動方針を決定した。

(ロ) 東京地本関係

(a) 昭和四五年八月二六日から二九日までの間、神奈川県箱根町観光会館において開催された国労東京地本第二一回定期地方大会は、「大幅賃上げ、一六五、〇〇〇人合理化反対、交運共闘、公労協らとの共闘を強め、ストライキをもつて闘う決意を固め、新営業体制、車両新検修体制などに対する反合闘争、スト権奪還の展望をふまえて、国鉄労働組合の先頭に立つて闘い抜く」旨の大会宣言を採択した。

(b) 又、昭和四六年三月一一日、一二日の両日、静岡県伊豆熱川ハイツにおいて開催された東京地本第五九回地方委員会は、「ストライキを強化し要求獲得まで粘り強い闘争戦術を採用し、青空闘争という原則に従つて、全日ストライキを各職場で反覆できるようにする。大幅賃上げを獲得し、当面の合理化に反対し、生産性運動を徹底的に粉砕する。」などを決定した。

(ハ) 上野支部関係

昭和四五年一二月八、九日の両日、静岡県伊東市観光会館において開催された国労東京地本上野支部第六五回定期支部代議委員会は、賃上げ抑制政策に対しては、一大決意をもつてストライキを決行する旨の大会宣言を採択した。

2 生産性運動とこれをめぐる国鉄労使の対立

〈証拠〉を総合すれば次の事実を一応認めることができる。

(1) 生産性運動とは、生産性を向上させる運動であり、その起源はILOのフィラデルフィア宣言にさかのぼるといわれ、日本においては昭和三〇年三月日本生産性本部が設置され、日本の経済の自立と国民の生活水準を高めるためには産業の生産性を向上させることが基本的要務であるとの認識に立ち、右運動の推進にあたつた。そして日本生産性本部はこの運動の趣旨として次の三原則を掲げた。

(イ) 生産性の向上は究極において雇傭を増大するものであるが、過度的な過剰人員に対しては、国民経済的観点に立つて、能うかぎり配置転換その他により失業を防止するよう、官民協力して適切な措置を講ずるものとする(雇傭の拡大)。

(ロ) 生産性向上のための具体的な方式については、各企業の実情に即し、労使が協力してこれを研究し、協議するものとする(労使協議)。

(ハ) 生産性向上の諸成果は、経営者、労働者および消費者に、国民経済の実情に応じて、公正に分配されるものとする(成果の公正配分)。

ところで、生産性の向上は、具体的には合理化、近代化、機械化によつてもたらされるとされるが、右原則からも明らかなように、生産性の向上によつてもたらされる成果が、公正に配分されることによつて、経営者にとつては企業の維持発展に、労働者にとつては労働条件の改善と経済的地位の向上に資するものとされ、従つて生産性の向上は労使双方にとつて、双方の目的達成のための共通の手段であるから、労使は生産性向上のために協力しなければならず、しかしてそのためには、生産性向上のために協力しかつ一方で成果の公正な配分を獲得するための、使用者と対等な立場に立つ労働組合主義を基調とする健全な労働組合が育成されなければならないものとする。

そして、右生産性運動は私企業の中に次第に浸透していつた。

(2) 国鉄は、年々累積する膨大な赤字を解消することに努力を傾注していたが、その一環として昭和四四年頃思い切つた企業の近代化、合理化を含む財政再建計画を立て、これを推進することとし、そのためには国鉄自身の国鉄再建に向つての企業努力を行なうことが緊要であるとの認識のうえに、国鉄職員に対する新しい理念教育が必要とされ、同年暮頃から、生産性運動、生産性教育が導入されるに至り、労使が協力して国鉄の近代化に取りくむ以外に国鉄再建の道はあり得ないことが強調された。そして国鉄職員の近代化、合理化に対する認識を深め、これに対する職員自身の自己啓発を喚起するための職員教育が進められるとともに、右教育の中において生産性運動の理念に添つた労使関係の改善の必要性がとかれ、暗に労働組合としての国労、動労の運動方針が誤りであるかのような印象を与える教育が進められていつた。

(3) 国労は、もともと国鉄当局の推進する企業の合理化、近代化に対しては、労働者の労働強化を招くなどを理由に反対の態度を表明していたが、財政再建計画に伴い推進された右生産性運動、生産性教育に対しても、これを国鉄に奉仕する企業主義的職員を養成するものであり、国労の切りくずしをはかる偏向教育であるとして、国鉄を批難、批判し、前記第三一回定期全国大会でもこの問題がとりあげられた。そして現実にも、とりわけ昭和四五年秋頃から生産性教育を受けた国労組合員が、国労の運動方針を批判しあるいは国労を脱退したり、この運動を推進する現場の職制から国労組合員が国労脱退を強要されるなどの事態を生ずるに及んで、国労は、国労委員長において同年年末頃国鉄総裁に不当労働行為のないよう厳重に注意してほしい旨の要請を行なうとともに、翌昭和四六年一月一三日国鉄当局に対し「職員の教育、養成等の諸問題について」と題する文書を提出し、職員の一般教育及び養成等の問題についてのとりきめを行なうための団体交渉の開催を申し入れた。その結果同年一月一九日から国鉄当局、国労との間の団体交渉が行われたが、その結果同年二月一九日に至り、国鉄職員局長と国労企画部長との間において、次の如き確認がなされた。

(イ) 職員の教育、養成の計画概要については、事前に説明し、組合側の意見を尊重する。

(ロ) 不当労働行為、偏向教育は行なわない。これについては職員局長が責任をもつて指導する。

(4) しかしながら、脱退強要等の国労組合員への末端職制による不当労働行為は一向におさまる気配を示さず、東京地本においては昭和四六年二、三月頃から、国労組合員数の減少傾向が目立ち始めるに至つた。これに対し国労は、国鉄当局との間で不当労働行為に該当すると見られる具体的事例について、国労企画部長と国鉄労働課長との間で折衝を行なうとともに、公労委への不当労働行為救済命令の申立をする一方、国労内部においても、第九二回拡大中央委員会において賃上げ闘争とともに生産性運動粉砕のための闘いの強化が確認され、七一年春闘への事実上のスタートを切つた第九三回春闘総決起拡大中央委員会でも同様これに対する各職場での闘争態勢の確立が強調された。又東京地本第五九回地方委員会においても、生産性運動を徹底的に粉砕する旨の決議を行つたことは前記説示のとおりである。

3 第九三回春闘、総決起拡大中央委員会後本件争議行為突入に至るまで

〈証拠〉によれば、次の事実が一応認められる。

(1) 団体交渉とその経過

(イ) 国労は、第九三回春闘総決起拡大中央委員会の決定に従い、昭和四六年三月二〇日中央執行委員長中川新一名で国鉄当局に対し、昭和四六年四月一日以降の賃金に関し、国鉄労働者の賃金を一人平均月額一九、〇〇〇円引きあげることなどの諸要求を申入れ動労も又同様の申入をなした。一方国鉄は、国鉄の財政事情が悪化していることに鑑み、経営の見通しを立てたうえでなければ賃上げに対する判断はできないとの観点から、国労との間で締結されていた、「近代化、機械化及び合理化等に伴う事前協議に関する協定」に基づき、同年三月二三日、国労、動労に対し、当面の合理化事案として、新規合理化事案八項目、従前から交渉中の事案六項目、及びこれらに関連したその他の事案八項目の合計二二項目の合理化案を提示した。国労は同年一月末から生産性運動にともない生じていた不当労働行為を重視し、「不当労働行為や分裂策動をやめない限り労使の正常化はない」として、当局の提示する合理化案の事前説明も拒否していたが、これ以上の事前説明拒否を続ければ、国鉄側に団交拒否の口実を与えかねないとの判断に立ち、右二二項目の合理化案に対する交渉に応ずることとしたが、同時に直ちに動労とともに、右合理化案が労働強化を伴うことなどを理由に同合理化案に反対する旨の声明を発表した。

(ロ) 同年三月三一日新賃金問題につき団交がもたれ、その席上国鉄当局は国鉄の財政事情の悪化を理由に、新賃金問題については合理化事案の交渉進展状況をまつて交渉したいとの新賃金問題の交渉に臨む当局側の基本的態度を表明した。これに対し国労は、新賃金問題と合理化問題は切り離すべきであり、両交渉を併行して進めるべきであると主張したため、新賃金問題の内容に立ち入つた実質的交渉が行なわれることなく、その前段階の同問題に対する交渉の方法をめぐつて対立を生ずるに至つた。その後新賃金問題に関する団交は、四月二六日、同月二八日と引き続き開かれたが、国鉄当局のこの問題の交渉のもち方に対する基本的態度は変わらず、合理化事案先決をめぐつて労使双方が対立したまま推移した。この傾向は、同月二七、二八日にわたつて他の二公社五現業当局が賃上げに関し五%プラス一、七〇〇円の有額回答を相ついで示した後も、国鉄当局が従前の態度を堅持したため、同月三〇日、五月七日、同月一三日、同月一四日、同月一五日(同月一三日以降の団交は、国労、動労の合同団交)と引続きもたれた団交においても見られ、新賃金問題に関する交渉は、全く何らの進展も見ないまま経過し、同月一五日の団交において国労、動労側から、同事案の交渉はこれ以上継続しても無意味であるとして団交打切りの通告がなされるに及んで、同日をもつて同事案に対する団交は事実上打切られるに至つた。このように国鉄は合理化問題先決を理由に新賃金要求に対し具体的な回答を終始示すことがなかつたため、前後九回にわたる新賃金問題に関する団交は、実質的な交渉がほとんど行なわれることなく空転した。

(ハ) 一方、合理化事案に関する交渉は新賃金交渉と別個にもたれた。ところで、機械化、近代化、合理化等の実施に伴う配転、免職、降職等の職員の雇用の安定に関しては、労使間で従前「雇用の安定に関する協約」が締結されていたところ、同協約が昭和四六年三月二日をもつて失効したことから、国労は同年三月二三日、合理化により必然的に伴う雇用の安定を計るため、合理化事案に関する交渉の前提として、雇用の安定等に関する協約締結等の申入れを国鉄になし、その後の合理化事案に関する団交の席上では雇用安定協約の再締結が先決であることを主張したが、結局合理化事案とともに交渉が進められていつた。しかして合理化問題については、多年にわたる懸案事項も含まれていたことなどから、全合理化事案の早急な解決は困難な状況にあつた。

(2) 公労委への調停申請

国労、動労は、前叙のとおり新賃金問題についての団交が決裂に至つたのちの五月一七日、同問題の国鉄労使による自主的解決は困難であるとして、公労委に調停の申請をなした。公労委調停委員会は、即日事情聴取を行ない、その結果、国鉄当局の具体的回答ないし賃上げに関する態度を明らかにしない限り、調停作業は進められないとして、労使双方に対し、なお調停が可能となるよう格段の努力が必要である旨を告げた。しかしながら国鉄当局はこの段階に至つても合理化事案先決の態度を変えず、賃上げに対する回答を依然として留保し、一方において賃上げの前提としていた合理化事案、雇用安定協約締結の問題についての交渉及びその解決に努力を注いだ。

なお、国鉄を除く二公社五現業の各労働組合は、既に四月下旬から五月上旬にかけて公労委に調停申請をしていたが、解決をみるに至つていなかつた。

(3) 生産性運動をめぐる情勢の推移

前叙のとおり国鉄は生産性運動推進に伴い不当労働行為は行なわないと確約したものの、末端の職場においては相変らず、右運動の推進に熱心なあまり、利益誘導あるいは強要による国労、動労脱退勧奨等の支配介入行為はあとを絶えず、国労、動労に留まる限り昇給、昇職、昇格等で他の職員と差別扱いされるのではないかとの疑いを生ずる事例も見受けられた。このような職場の情勢を反映して、国労、動労組合員の脱退は一層激しくなるとともに、他方国労、動労組合員の生産性運動に対する反撥あるいは国鉄当局に対する不信感は一層深まつていつた。これに対し、国労は具体的な不当労働行為が発生した都度、当該地方において事実調査、地方当局との交渉等を行なう一方、本部段階でも前記了解事項の再確認等を求めて、昭和四六年五月一七日頃から国鉄職員局労働課と交渉を持つに至つたが、国鉄当局側のこの問題に対処しようとする態度は消極的であつたため、交渉は難航した(なお、生産性運動にともなう不当労働行為は、後記の如き本件争議行為の結果にもかかわらず依然として頻発したが、本件争議行為後、公労委が国労の同運動にからむ不当労働行為救済命令申立に対し、不当労働行為の存在したことを認定して救済命令を発するに及んで、生産性運動そのものが昭和四六年一〇月二九日中止されるに至つた。)。

(4) 闘争態勢の確立

国労は、新賃金問題等に対する団交を国鉄当局と重ねる一方、これらの問題に対する闘争態勢を確立していつた(以下の事実は特にことわりのない限り当事者間に争いがない。)。

(イ) 国労の中央執行委員会は、第九三回春闘総決起拡大中央委員会後、昭和四六年四月六日及び同月二七日と、国労会館において、全国戦術委員長会議を開催し、闘争の具体化を検討した。又一般組合員のストライキ参加の意思を確認するため、各組合員にストライキの賛否を問う投票を求め、同月三〇日その結果が集約されたが、それによると組合員総数二六四、二一一人中一七九、二七五人(組合員総数に占める割合67.85%、なお投票総数を基準にすればその割合は78.8%になる。)がストライキに賛成の意思を表明した(右スト権投票に関する事実は前掲各証拠による。)。次いで中央執行委員会は五月一二日、東京都内のステーションホテルにおいて再度全国戦術委員長会議を開催し、ストライキについての具体的な行動計画を決定し、同月一四日中央執行委員長中川新一名をもつて、指令第二二号「五月一八日―二〇日のストライキについて」を各地方における本部執行委員長及び地方本部執行委員長に発した。右指令の内容はおおむね次のとおりであつた((b)、(c)、(d)、(e)の一部は〈証拠〉による。)。

(a) ストライキの実施内容は、一八日零時から二〇日二四時までの間に七二時間のストライキ突入時間帯を設置して、波状的にストライキを決行する。

(b) 一八日は私鉄総連の二四時間スト、全日通の一八日から一九日にかけての四八時間ストと共闘してたたかうが、そのたたかいの目標は次のとおりとする。

(Ⅰ) 私鉄を中心とする交通関係労働者の賃金引き上げのたたかいを支援共闘する。

(Ⅱ) 調停段階を団交の場と理解し、当局側に有額回答を迫り、格差を排除させる。

(Ⅲ) 賃金体系の改正をたたかいとる。

(Ⅳ) 雇用安定の協約など基本要求、職場要求の解決をはかる。

(c) 二〇日は公労協の統一闘争を組織し、公労協は最低でも一日のストライキを配置してたたかうが、国労、動労のたたかいの目標は次のとおり統一する。

(Ⅰ) 新賃金を確立させる。

(Ⅱ) 新賃金配分の骨格を決める。

(Ⅲ) 不当労働行為、不当差別、組織介入反対、不当処分反対。

(Ⅳ) 四月昇給の解決をはかる。

(Ⅴ) 雇用安定に関する協定を始めとする基本要求、職場要求の解決をはかる。

(d) 一八日から二〇日にむけてのスト突入時刻は、中央執行委員会がブロック派遣戦術委員を通じて指令する。

(e) 一八日以降のストライキは、二〇日の賃金確定をはじめとする諸要求解決の集約まで途中において、中止指令は発しない。スト突入時間は二四時間以内とする。

(f) 二〇日の二四時間ストの拠点は次のとおりとする。

○ (東京ブロック)東京、汐留、品川、蒲田、渋谷、新宿、池袋、大宮、浦和、赤羽、田端、尾久、上野、隅田川、松戸、北千住、中野、三鷹、小金井、立川、豊田、八王子、青梅、川崎、臨港、新鶴見、横浜、高島、大船、横須賀、茅ケ崎、国府津、熱海、伊東、大月、甲府、小山、宇都宮、黒磯、白河地区の運転部門、主要駅、施設など国電を含む全職場。

影響線区は山手、中央、京浜東北、横須賀、青梅、南武、相模、総武、常磐など全国電と高崎線、東北本線、上信越線、八高線。

○ (関東ブロック)長岡、新潟、新前橋、本庄、原ノ町、富岡、平、水戸、土浦、友部、常陸大子、下館、両国、千葉、成田、津田沼、新小岩、館山、木更津、各地区(上越、高崎、東北、常磐、総武各線)。

影響線区は上信越線、常磐線、成田線、総武線、房総西線。

○ (中部ブロック)沼津、静岡、浜松、豊橋、名古屋、米野、稲沢、大垣、岐阜、米原各地区(東海道本線、飯田線)。

影響線区は東海道本線。

(ロ) 右スト指令に至るまで、東京地本及び同地本上野支部において、次のとおり闘争に向けての会議が開催された。

(a) 昭和四六年四月三〇日東京都内みやこホテルにおいて国労東京地本各支部委員会、戦術委員会委員長、業務部長、組織部長合同会議が開催され、同地本書記長から次の如き闘争方針の報告がなされ、これを確認、了承した(会議の名称、報告、確認、了承の事実は〈証拠〉による。)。

(Ⅰ) 五月一八日、一九日、二〇日に反覆ストライキを実施する。

(Ⅱ) スト時間は二四時間とし、それぞれ実情に合わせ、決定的段階において国電、最重要幹線を入れる。

(Ⅲ) 東京地本においては所属の全支部の全分会が参加するストの方式をとる。

(Ⅳ) リボン着用、ビラ貼り、組合旗掲揚は、五月一〇日以降実施する。

(Ⅴ) 五月一〇日からオルグを実施する。

(Ⅵ) 具体的な計画については五月七日一四時から各支部戦術委員長会議を開催して検討する。

(b) 同年五月七日国労東京地本事務室において、東京地本執行委員会の諮問機関としての各支部戦術委員長会議が開催され、同会議において、次の如き内容の同日付指令第二九号(国労東京地本本部執行委員長発、各支部執行委員長宛)が報告され、春闘行動について各地方における情勢などにつき分析、協議した結果、これを確認、了承した(右会議が諮問機関であること、右指令が伝達され情勢分析、協議の結果これを確認したことは〈証拠〉による。)。

(Ⅰ) 各支部は五月一〇日から組合旗の掲揚及びリボン、ワッペンの着用が完全実施できる態勢を確立すること。

(Ⅱ) 各支部は、ビラ、ステッカー貼りを創意工夫をこらして実施すること。

(Ⅲ) 各支部は、別に指示した義務機関が五月二〇日始発時から終電車までストライキに突入できるよう態勢を確立すること。

(Ⅳ) 施設及び電気の各支部は五月一九日ろう城戦術を行い、五月二〇日職場においてサボタージュ行動を実施すること。

(c) 同月一二日国労東京地本事務室において、右(b)同様の各支部戦術委員長会議が開催され、地本執行委員会の次の如き内容の闘争方針が報告され、情勢等につき分析、協議した結果、これを確認、了承した(報告、確認、了承の事実は〈証拠〉による。)。

(Ⅰ) 五月二〇日のストライキについては、線区別、地区別拠点方式とする。

(Ⅱ) 突入時間帯については、初電から終電までとする。但し、東海道本線のように他地本と関連のある線区については零時からを基本とする。

(Ⅲ) 動員については、自支部動員として自主参加方式とする。

(Ⅳ) 外部動員については、各支部の判断にまかせる。

(Ⅴ) 詳細については、再度各支部の戦術委員長会議を開催して決定する。

(d) 同月六日上野支部事務室において上野支部闘争委員会が開催され、前記(a)で述べた事項の消化の方法を検討し(消化の方法を検討したことについては〈証拠〉による。)、M電(東京近部の通勤電車を除いた電車列車)の取扱については、関係地本と意思統一をはかり行なうことを決定した。

(e) 同月一二日、東京都内滝ノ川会館において、上野支部分会長会議が開催され、春闘決戦段階の行動としての次の如き内容の本部指令が伝達され、情勢の報告等がなされたのち、これを確認了承した(伝達、確認、了承については〈証拠〉による。)。

(Ⅰ) 各分会は五月一〇日以降のビラ貼り、リボン着用、組合旗の掲揚を強化すること。

(Ⅱ) 各分会は五・二〇ストの準備体制を早急に確立すること。

○ ストライキ突入時間及びスト時間

乗務員は始発時から終電時まで、日勤者は出勤時から終業時まで。

○ ストライキの実施方法

全組合員の自主参加方式。

○ ストライキ決行前日から全職場でろう城する。

(Ⅲ) 支部派遣役員については別途指示する。

(ハ) 国労の以上の如き争議行為態勢の確立に対して、国鉄当局は同年五月三日磯崎国鉄総裁が「労働組合の当面の動向に関し、職員諸君に訴える」と題し、計画にかかる争議行為が違法行為であるとして全職員に対しその中止を求める訓示をなし、東京北鉄道管理局も又その頃同管理局長名で管内全職員に、あるいは東京地本執行委員長に同様の要請ないしは申入れをなすとともに、争議行為突入に至つた場合には処分のあるべきことを警告した。しかしながら、国労は一切の諸問題が解決していないとして、指令第二二号に基づき、同月一八日先づ北海道、九州などの拠点でストライキに突入し、同月二〇日の東京を中心とするストライキを頂点とした波状ストライキに突入していつた。なお、同日私鉄大手一一の労働組合も同月一四日に続き二四時間ストに突入した。

(5) 本件争議行為直前の状況

(イ) 同月一九日、国労、動労、全逓など公共企業体等労働組合で構成する公労協は、戦術会議を開き、二〇日中に賃金紛争に決着をつけるという態度を堅持し、統一ストライキ決行を再確認した。一方、公労委も同日午後五時五〇分頃、三公社五現業の賃上げ紛争を一括処理するため同月一七、一八日と重ねて開催してきた合同調停委員会の第三回目の会合を開催し、今後の調停作業の進め方を協議した。その結果、前日まで私鉄紛争の解決待ちを強く主張してきた使用者委員が「私鉄の解決にこだわらない」と譲歩したため、同委員会は本格的な調停作業にはいることを決めると同時に、国鉄の回答を得たうえで二〇日未明をめどに調停案をまとめ、公労協の紛争を決着させる方針を確認し、国鉄の回答を待つため、一旦休憩に入つた。

(ロ) 国鉄労使は、前日に引き続き、同月一九日午前一一時頃から二二項目の合理化事案及び雇用安定協約締結等の問題について交渉を進めたところ、雇用安定協約の問題については、同日午後九時半頃「雇用不安を除く」という前提にたつ大要について合意に達した。他方、二二項目の合理化事案については、一部解決をみたものもあつたが、大部分は未解決であり、いずれにせよ全事案の早急な解決は無理な状況にあつたので、同日午後一〇時半頃、同事案のその時点での交渉の進展状況、今後の見通し等につき労使双方の間で一応の整理をなした。しかしてその直後の同日午後一一時頃、真鍋国鉄常務理事が金子国鉄関係調停委員長に「四六年度の賃金引上げについては他公社、現業との均衡を考慮したい」旨を伝えたため、公労委合同調停委員会は同日午後一一時二〇分頃再開し、具体的な賃上げ額を精力的に詰めることを決め、公益委員が中心となつて、労使双方委員と交互に折衝を続けた。

(三)  本件争議行為の経過とその影響

〈証拠〉によれば、次の事実が一応認められる。

1 争議行為の経過

(1) 公労委合同調停委員会は、五月一九日午後一一時二〇分頃、調停作業を再開したが、労使双方の賃上げ額にはかなりの開きがあり、調停作業は難航した。その間、国労、動労は二〇日午前零時から静岡、名古屋各鉄道管理局内の二八拠点でストライキに突入し、このため東海道線の夜行旅客、貨物列車が一部で停止し、ストライキの影響が出始めた。続いて同日午前四時過ぎの始発時から東京周辺の国電、東北本線、両毛線、水戸線、烏山線、日光線、高崎線、上信越線、房総西線、紀勢本線、和歌山線、阪和線、関西本線などが次々とストライキに突入した。又国労、動労以外の公労協七組合も統一して同日ストライキに突入した。

国鉄当局は、国労、動労のストライキに備えて、乗務員の確保に努め、これを配置したが、東京周辺の国電の運転本数は、平常ダイヤの三分の一から五分の一に減少し、同日朝のラッシュ時には相当の混乱が生じた。東京の国電全線が長時間ストに突入したのは、国鉄史上初めてのことで、朝のラッシュ時の混乱を憂慮した国鉄当局は、同日午前七時一五分首都圏で「異常事態宣言」を発表し、東京周辺の各駅での乗車券の発売を一時中止する一方、通勤、通学者に対し、通勤、登校を控えるよう呼びかけた。

(2) 一方公労委合同調停委員会による調停は、一九日から二〇日にかけ徹夜で進められていた。しかして労使双方の主張に一致が見られず、二〇日午前二時半頃、調停委員長が最終的な解決案を労使双方に提示したが、労働者側の賛成が得られなかつたため、結局調停は不調に終つた。そして、同調停委員会は、同日午前九時半頃調停不調を確認するとともに、今後の事態収拾につき、近日中に臨時総会を開催することとし、公共企業体等の賃上げをめぐる紛争の解決の場は仲裁に移行することが明らかとなつた。

ところで、国労、動労を除く公労協七組合は調停が不調になり、直ちに仲裁に移行しない見通しが明らかになるや、同日朝、それぞれ直ちにストライキを中止するか、あるいは午前一〇時までの時限ストライキに戦術をダウンした。しかしながら、国労、動労は、生産性運動に伴う不当労働行為、不当差別の問題が解決していないとして、なおストライキを継続した。

国労、動労は、右生産性運動の問題については、根本的には右運動の中止を求めて、従前国鉄労働課長との間で折衝を続けてきたが、事務レベルでの交渉では生産性運動の中止についての交渉は不可能であると判断し、同日午前一〇時頃、国労、動労の両執行委員長と国鉄総裁との会見を国鉄側に申入れた。しかして右会見の可否をめぐつて対立が生じ、結局同日午後二時頃総裁は病気中のため副総裁と会見することで折合いがつき、副総裁と両委員長との会談が持たれた。その結果同日午後六時頃、国鉄側から「生産性運動に伴つて生じている諸問題については十分検討する。偏向教育、不当差別、不当労働行為は絶対に行なわない。処分のための処分は行なわない。あくまでも慎重を帰する。」旨の確認を得たため、国労は、動労とともに、内容については不満、不十分の点はあるとしながらも、国鉄上層部の確約がとれたということで、同日午後七時頃指令第二三号をもつて、決行中のストライキの中止を地方本部等に指令し、その頃ようやくストライキは終息をみた。

2 本件争議行為の及ぼした影響

(1) 本件ストライキは、その規模において国鉄史上始まつて以来の空前のストといわれた。右ストライキの結果、国鉄職員二一、六一六人(うち国労組合員一八、九八〇人)が欠務し、運休した旅客列車は三、五六九本を、同貨物列車は一、三五七本を、遅延した旅客列車は八八五本を数え、ストライキ継続時間は一九時間に及んだ。

又、五月二〇日午後七時ストライキは中止されたものの、乗務員、列車の配備等で同日のダイヤは終日乱れ、とりわけ貨物列車及び長距離旅客列車が正常運転に復するには、翌二一日以降相当時間の経過を必要とした。

(2) 右ストライキの影響を東京地本関係の鉄道管理局管内についてみれば、運休旅客列車は二、九五七本、同貨物列車は九六九本、遅延旅客列車は七九〇本にのぼり、約八〇〇万人の足が奪われ、もしくは乱れた。

又、上野駅を中心とした運休旅客列車についてみると、中長距離列車のうち東北本線急行一六本、同普通四〇本、高崎線普通一一本が、国電のうち京浜東北線四〇六本、山手線三四六本、総武線二九八本、常磐線一七四本がそれぞれ運休した。

なお、ストライキは朝夕の通勤ラッシュ時に及んだため、同ラッシュ時の混乱でけが人も何人か発生した。

(四)  申請人ら各人の行為

1 東京地本上野支部の組織形態

〈証拠〉によれば、次の事実を一応認めることができる。

(1) 上野支部は、国労東京地方本部に所属し、組合員数は八、一七六名で東京地本所属一六支部中新橋支部に次ぐ組合員を擁している(なお東京地本組合員総数は四七、七四八名、以上昭和四七年九月一日現在。)。その組織の範囲は、国鉄東北線秋葉原駅から大宮駅間の各駅、常磐線三河島駅から取手駅間の各駅及び隅田川駅、川越線日進駅から武蔵高萩駅の各駅、上野、田端、大宮の各車掌区、下十条、浦和、松戸の各電車区、尾久、上野の各客車区、田端貨車区、大宮、隅田川の各客貨車区、田端、大宮の各機関区ほか一九の国鉄の業務機関に所属する組合員から成つている。

上野支部には隅田川駅分会、大宮機関区分会等六七分会(昭和四七年九月一日現在)が所属している。

(2) 上野支部には支部の最高決議機関として代議委員会が、執行機関として支部執行委員会が設けられ、支部執行委員会は支部執行委員長、支部執行副委員長、支部書記長各一名、支部執行委員四名をもつて構成される。

闘争時には上野支部闘争委員会が設けられ、闘争委員長に執行委員長が、闘争副委員長に執行副委員長が、闘争委員に執行委員が支部規約上当然にあてられ、右闘争委員会は中央本部闘争委員長及び地方本部闘争委員長の指令及び代議員会の決議の範囲内で闘争手段を決定して、闘争委員長が組合員に指令する。なお闘争時においては支部闘争委員会が支部所属の各地域に現地責任者を派遣し、当該派遣された者が、現地における闘争の最高責任者となり、当局との間ではストライキ等争議行為突入、解除の通告を行なうなど組合側の窓口となる。

2 申請人小松千里関係

次の事実は特にことわりのない限り当事者間に争いがない。

(1) 申請人小松千里は、本件争議行為当時国労東京地本上野支部書記長の役職にあつたところ、前記(二)1(1)の会議に代議員として、同(3)(イ)の会議に委員として、同(3)(ハ)、(ニ)3(4)(ロ)(a)ないし(e)の各会議に上野支部書記長として出席した。

(2) 同申請人は、本件争議行為に際して、上野支部闘争委員会から現地最高責任者として浦和電車区に派遣されていたが(この事実は〈証拠〉により一応認められる。)、昭和四六年五月一九日午後九時三三分頃浦和電車区長室に赴き、現地指揮者の近藤大宮駐在運輸長に対し、本部、支部の準備指令にもとづきスト準備中であり、後刻ストに突入すべき旨を通告した。これに対し近藤運輸長は右ストライキの違法なる旨を告げ、その中止を求めたがこれを無視した。

翌五月二〇日午前七時頃、川口駅助役鈴木卓造が浦和市岸町七の四の六千代田旅館に赴き、同申請人に対し職場離脱した職員二三名の職場復帰を求めたが、同申請人はこれを拒否した。

又同申請人は、同日午後八時五七分頃浦和電車区長室に赴き、近藤運輸長に対しストライキの指揮者としてその責任をとる旨言明した。

3 申請人平井弘治関係

次の事実は特にことわりのない限り当事者間に争いがない。

(1) 申請人平井弘治は、本件争議行為当時東京地本上野支部執行委員(組織部長)であつたところ、前記(二)1(3)(ロ)(a)の会議に代議員として、同(b)の会議に地方委員として、同(3)(ハ)、(ニ)3(4)(ロ)(a)、(d)、(e)の各会議に上野支部執行委員(組織部長)として出席した。

(2)(イ) 同申請人は本件争議行為に際して上野支部闘争委員会から現地最高責任者として下十条電車区に派遣されていたが(この事実は〈証拠〉により一応認められる。)、昭和四六年五月一九日午後六時四〇分頃、下十条電車区に赴き、同区検修庫台検職場における国労、動労の共闘総決起集会の席上、約二〇〇名の組合員に対して、「当局は二一万合理化しなければ賃上げしないといつている。われわれは闘い抜かなければならない。当局は生産性運動を通じて組合の破壊活動をしている。生産性運動粉砕、合理化粉砕、生活を守る大幅賃上げの闘いを勝ちとろう。」との演説を行つた。

(ロ) 又同申請人は、翌同月二〇日午前三時三分頃、下十条電車区長室に赴き、現地指揮者の盛岡上野駐在運輸長に対し、ストライキ突入を通告した(しかしてその際同申請人がストライキの一切の責任者は自分である旨言明したとの被申請人の主張については、〈証拠〉にこれに副う記載が存するが、右記載は同号証の作成日及び〈証拠〉に照らし直ちに措信しがたく、他にこれを認めるに足る疎明は存しない)。

4 申請人長坂正昇関係

次の事実は特にことわりのない限り当事者間に争いがない。

(1) 申請人長坂正昇は、本件争議行為当時東京地本上野支部執行委員(調査部長)であつたところ、前記(二)1(3)(イ)の会議に委員として、同(3)(ロ)(a)会議に代議員として、同(3)(ハ)、(ニ)3(4)(ロ)(d)、(e)の各会議に上野支部執行委員(調査部長)として出席した。

(2)(イ) 同申請人は、本件争議行為に際して上野支部闘争委員会から現地最高責任者として隅田川駅に派遣されていたが(この事実は〈証拠〉から一応認められる支部執行委員は闘争時において現地の最高責任者として派遣されるという事実、申請人長坂正昇は上野支部執行委員であつたこと、及び次の争いのない事実を総合して推認することができる。)、昭和四六年五月二〇日午前六時三五分頃、隅田川駅に赴き、同駅構内陸二ホーム田端寄りに組合員約四五〇名を集めて開催された決起大会に出席し「昨日の闘争は大きな成果があつた。今日は更に団結を固め成果をあげよう。」との演説を行ない、続いて大会終了後午前七時三二分頃からデモの指揮をした。

(ロ) 又同申請人は、同日午後五時一〇分頃、隅田川駅運転部に赴き、勤務中の職員片岡三次郎に対し職場集会の参加を説得した。

5 申請人岡田勲関係

(1) 申請人岡田勲は本件争議行為当時国労東京地本上野支部執行委員(教宣部長)の役職にあつたものであるが、前記(二)1(1)の会議に代議員として、(二)1(3)(ハ)、(ニ)3(4)(ロ)(d)、(e)各会議に上野支部執行委員(教宣部長)として出席した。

(2)(イ) 昭和四六年五月一九日午後六時一五分頃、大宮客貨車区に赴き、同区修繕庫内に組合員約六五〇名を集めて開催された集会に出席し、同区長小熊昌男の退去通告にもかかわらず集会を続行し、「五・二〇闘争で決着をつけよう。本部でためらつても地本支部で決着をつけるからテレビ、ニュース等にまどわされないように最後まで頑張ろう。」との演説を行つた。

(ロ) 又同申請人は、同日午前一〇時三五分頃、大宮機関区広場に赴き、組合員約三二〇名を集めて開催された集会に出席し、「現状は一歩も進展してはいない。上野支部六五分会は午前〇時からストライキに突入し、現在も続行中である。全逓は午前一〇時にスト中止指令が出た模様であるが、国労は基本協約ができるまで中止しない。全員結束して最後まで頑張ろう。」との演説を行なつた。

(ハ) なお、同申請人は前日の同月一九日午後六時頃、大宮機関区長岡田穣あて電話で、「今回の闘争の大宮地区の現地指揮者は俺である。」と言明した。

以上(1)、(2)(イ)ないし(ハ)の事実は当事者間に争いがない。

(3)(イ) 〈証拠〉を総合すると一応次の事実が認められる。

申請人岡田勲は本件争議行為に際して上野支部闘争委員会から大宮地区の国労組合側の最高責任者として派遣されていた。ところで本件争議行為当時大宮機関区には会計事務、統計事務等の事務を扱う事務掛の職員二〇名がいたが、うち国労組合員でもある一七名が本件争議行為の前日の昭和四六年五月一九日、大宮機関区長あて連名で闘争には参加せず勤務に就くので保護願いたい旨の保護願いを書面で提出していた。翌五月二〇日は給料支給の日にあたりそのための事務が予定されていたためもあつて、同日午前八時前頃保護願いを提出していた清水事務掛ほか三名が出勤してきたが、大宮機関区事務室付近において、国労同機関区分会書記長及び青年部組合員らの説得活動にあい、右事務室に入室することができなかつた。申請人岡田勲もしばらくして右現場に赴き、主に同所にいた大宮機関区長と右四名の就業につき話し合つていたが、午前九時頃同機関区長が保護願いの趣旨にもとづき右四名の事務掛を他の場所に移すため自動車に乗車させたため、同申請人ほか組合員が右自動車の周りを取り囲んだことから、右自動車は発進不能となり、結局機関区長と同申請人との間に事務掛を就業させないことに協議が成立した午前九時一五分頃までの間、右自動車の発進が妨げられた。

(ロ) 〈証拠〉を総合すると、次の事実を一応認めることができる。

前同日午後六時頃国労大宮機関区分会青年部組合員山口浅雄が前記事務室入口のドアから入室した際、事務掛の職員を現認したため、これを午前中の約束に反した行為であると判断し、同僚組合員をして同分会事務所へ右事実及び動員者の要請の連絡にあたらせたところ、組合員約二五名程が続々と右事務所前に詰めかけ、同組合員らが「あけろ、あけろ。事務掛を出せ。出さなければぶちこわすぞ。」などと口々に叫びながら、既にそのときには施錠されていた事務室入口のドアを叩いていたが、同事務室に通ずる区長室側のドアがたまたま施錠されていなかつたため、同所から区長室を通つて事務室に入つた右山口浅雄が事務室入口のドアの鍵をあけ、組合員を事務室に入室させた。当時申請人岡田勲、同長島茂夫は右分会事務所におり、申請人岡田勲は右事実を知らされてすぐに、同長島茂夫はやりかけていた仕事の関係からしばらくして右事務室に交渉のため赴いた。しかして申請人長島茂夫が赴いたときには、既に事務室入口のドアは開いており、組合員が同室に入室したあとであつた。結局、その場は、当時事務掛の勤務時間が経過していた時刻であつたことから、事務掛を直ちに帰宅させるということで双方が了承したため、右以上の混乱は生ずることなく事態は収拾された。

ところで被申請人は、申請人岡田勲が組合員約三〇名を指揮して右事務室入口のドアを叩くなどして同室に乱入したと主張するが、右認定のとおり同申請人が右事務室に交渉のため赴いたことは認められても、組合員が鍵のかかつた事務室に入室しようとしていた当時同申請人が事務室入口のドア付近にいたかについては、右事実を推測させる〈証拠〉が存するが、右〈証拠〉は、あいまいさも残しており、又〈証拠〉に照らしても直ちに措信しがたく、他に右主張事実を認めるに足る疎明はない。

6 申請人長島茂夫関係

(1) 〈証拠〉(ただし以上四名の証言あるいは尋問の結果については後記措信しない部分を除く。)を総合すると次の事実を一応認めることができる。

(イ) 大宮機関区は、国鉄東北線、川越線の貨物列車の運転を中心とし、それに付随した機関車、レールの検修等の業務を担当している部門であり、国労同機関区分会所属の組合員数は本件争議行為当時約二〇〇名であつた。しかして同機関区では昭和四三年から四四年にかけ機関車の助手廃止反対闘争が活発に行なわれたうえ、合理化を推進するための生産性運動をめぐつて種々の問題を生じ、労使関係は異常な状態が続いていた。本件争議行為当時の昭和四六年五月二〇日同機関区分会は指令に従い午前四時からストライキに突入し、二〇名弱を除いた組合員が右ストライキに参加した。

(ロ) 申請人長島茂夫は、本件争議行為当時国労東京地本上野支部同機関区分会執行委員長の役職にあつたが、前記(二)1(3)(ハ)の会議に代議委員として出席した(この事実は当事者間に争いがない。)。

(ハ) 同申請人は昭和四六年五月一三日午後零時から同零時四五分までの間、大宮機関区検修詰所に国労分会員約三〇名を集め、春闘勝利、生産性運動粉砕の総決起集会を開催し、「一九日は全員ろう城し、二〇日はストライキを実施する」などと演説を行なつた(この事実は当事者間に争いがない。)。

(ニ) 同機関区分会所属の組合員であり同機関区誘導掛職員柳田安夫、関口福松、島村仲一郎、石川三郎、手塚勝次郎、蓮沼忠三の六名は、同月一九日午後九時頃ストライキ不参加の意思で保護願いを文書で上司の矢島巌助役に提出した。翌五月二〇日午前四時頃、柳田安夫を除いた他の五名は大宮機関区構内稲荷台信号詰所で業務についており、柳田安夫は誘導詰所で仮眠中のところ、申請人長島茂夫、分会書記長落合宣、及び分会青年部長山口浅雄が同所を訪れ、柳田安夫ら六名にストライキ参加を求めた。そのうちにかねて同所に集合することになつていた分会青年部所属組合員多数が同所に集るに至つた。これに対し柳田安夫、手塚勝次郎、関口福松、島村仲一郎はストライキ参加の求めを拒んだが、結局拒みきれず、それぞれ各詰所を出たところ、右四名はそれぞれ青年部組合員らに押されるようにして、予め用意された自動車のところまで歩き、同自動車に乗車した。右自動車のところまで行く途中島村仲一郎は誘導詰所付近の冷房器覆の柱にしがみついたが、申請人長島茂夫はこれを背後から抱きかかえるような形でふりほどいた。ところで右四名のうち柳田安夫は同日午前八時半に、関口福松は同日午前七時に、手塚勝次郎は同日午前七時二五分にそれぞれ勤務があけることになつていた。〈証拠判断省略〉

しかして被申請人は、申請人長島茂夫ら組合員が島村仲一郎外六名を強制連行したと主張するが、右認定の柳田安夫、手塚勝次郎、関口福松、島村仲一郎以外の他の三名に関してはこれを認めるに足る疎明はない。

(2) 被申請人主張の同日午前八時四〇分頃の大宮機関区指導員詰所付近における申請人長島茂夫の業務妨害行為については、同時刻頃現場に同申請人の姿を見たとという〈証拠〉が存するが、右各〈証拠〉は〈証拠〉に照らし、直ちに措信しがたく、他に右主張事実を認めるに足る疎明はない。

又同日午後六時頃の大宮機関区における申請人長島茂夫に不法侵入行為があつたとする被申請人の主張については、その際の状況については前記申請人岡田勲関係の項(3)(ロ)に述べたとおりであり、同申請人に不法侵入行為があつたとはいえない(これを推測させる〈証拠〉は〈証拠〉に照らし直ちに措信しがたく、他に右主張事実を認めるに足る疎明はない。)。

7 申請人久下守関係

〈証拠〉(但し右証人松井稔の証言及び同申請人本人尋問の結果については後記措信しない部分を除く。)によれば次の事実が一応認められる。

(1) 国鉄隅田川駅は、貨物専用駅で他に手小荷物を取扱つており、駅長以下の職員が七〇八名(昭和四六年四月一日現在)、一日平均の貨物取扱トン数は発送、到着分合計九、八八五トン(昭和四六年度)で、東京都内の貨物関係の駅としては比較的大規模な部類に属する駅である。国労同駅分会は、昭和四六年当時約五〇〇名の組合員を擁していた。一方同駅には他に鉄道労働組合(以下単に鉄労という。)所属の組合員約一二〇名が存していた。

ところで、国鉄が生産性運動を推進するや、同駅では駅長を会長とする生産性運動推進グループなる会を発足させ、同運動推進のための宣伝活動として(生)あけぼの会ニュースを発行したり、同運動に関する勉強会、他の職場の見学等かなり活発な推進運動が展開されていた。そして同運動が活発に推進されるなかで不当労働行為と目される行為が頻発した。例えば同駅々長、助役らが国労同駅分会組合員と個別的に折衝し、「同分会はアカ分会である」といつては国労脱退をすすめ、あるいは鉄労への加入を要求して予め用意した「国労脱退届」と「鉄労加入届」に押印をせまるなどの行為が行なわれた。又昭和四五年八月頃行なわれた昇給人事に際しては、昇給しなかつた者四一名全員が国労組合員であり、昇給において国労組合員を差別したと見られてもやむを得ない事態が生じていたが、その後同駅助役らは暗に国労に所属していては昇給、昇職、昇格等の人事面で不利になることをほのめかしては国労脱退、鉄労加入を慫慂したりした(事実本件争議行為後の昭和四六年一〇月に行なわれた昇格人事においては、国労同分会所属組合員一五名に対する不当差別があり、国鉄当局はほぼこれを認めたうえで、後に至りその回復措置をとつたほどである。なお隅田川駅々長は昭和四六年一二月頃同駅において不当労働行為があつたとして厳重注意処分に付された。)。

このような背景の下に、昭和四五年九月頃から国労脱退者が生ずるに至り、同分会国労組合員数はその頃から確実に減少の傾向をたどり、本件争議行為当時まで約一三〇余名の国労組合員が数において減少していた。

(2) 申請人久下守は、本件争議行為当時国労東京地本同駅分会執行委員長であつたが、前記(二)1(1)の会議に代議員として、同(2)(イ)ないし(ハ)の各会議に中央委員として、同(3)(ロ)(a)の会議に代議員として、(二)3(4)(ロ)(e)の会議に隅田川駅分会執行委員長として出席した(この事実は当事者間に争いがない。)。

(3)(イ) 同申請人は、昭和四六年五月二〇日午前六時三五分頃から同七時三〇分頃までの間、隅田川駅陸二ホーム田端寄りにおいて、組合員約四五〇名を集めて決起大会を開催した際、同申請人が音頭をとり「団結で頑張ろう」「合理化反対」「隅田川駅春闘決起頑張ろう」などと叫び、右大会終了後七時三二分頃からデモを指揮した。

(ロ) 又同申請人は、同日午前五時二五分頃隅田川駅運転部に赴き、勤務中の職員白井実外一名に対し、職場集会に参加するようにとの説得を行なつた(以上(イ)、(ロ)の事実は当事者間に争いがない。)。

(4) 同日午前四時三五分頃、前記陸二ホーム付近に前記決起大会に参加すべく勤務を放棄して職員多数が集つていたので、隅田川駅宮沢助役、同金子助役代理が同所に赴き、右職員らに職場復帰を呼びかけたところ、同申請人らは「赤帽帰れ」とのシュプレヒコールを行なつた。〈証拠判断省略〉

二本件解雇の効力

(一)  公労法第一七条第一項は、憲法第二八条に違反するか。

1 憲法第二八条と公共企業体等の職員の労働基本権

(1) 憲法第二八条は、いわゆる労働基本権、すなわち、勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障しているが、その趣旨とするところは、憲法第二五条に定める生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間たるに値する生存を保障するために、憲法第二七条の定める勤労の権利および勤労の条件の保障と相俟つて、経済的劣位に立つ勤労者に対し実質的な自由と平等とを確保するための手段として、その団結権、団体交渉権、争議権等を保障しようとするにある。

ところで、右労働基本権の保障は、単に私企業の労働者にのみ与えられるものではなく、私企業労働者と労務を提供して自己の生活の資を獲得する点において、基本的に何ら異なるところのない公共企業体等の労働者にも適用さるべきものである。

(2) しかしながら、右の如き労働基本権は、人間の生活が社会の場で営まれる以上、他の人権との間に矛盾、相剋を来たすことが当然に予想されるところであるから、他の人権との相互調整がはかられなければならないのであつて、従つて必然的に制約性を内包し、絶対無制限ではあり得ないといわざるを得ない。とりわけ、公共企業体等職員の従事する職務ないし業務は、多かれ少なかれ等しく国民生活と密接なかかわりあいを有しているのであるから、国民生活全体の利益の保障との調和という見地から、公共企業体等職員の労働基本権は、その職務の公共性に対応したなんらかの内在的制約を有しているものと解さざるを得ない。

ところで、公共企業体等が行なう業務は、その性質上当然に国または地方公共団体等の公共機関に委ねられなければならない必然性を有してはおらず、場合によつては私企業に委ねることも可能な業務であるのみならず、一口に公共企業体等職員の従事する職務ないし業務といつても、極めて公共性の強いものから私企業のそれとほとんどかわらないものまで多種多様にわたり、従つて労働基本権の行使によるその職務の停廃が国民生活に及ぼす影響も千差万別であるから、公共企業体等の職員の労働基本権について、ただ単に公共企業体等の職員であるからとか、公共企業体等の職員の職務が一般的、抽象的に私企業のそれと比較して公共性がより強いという形式的理由から、一律にこれを否定し、あるいは制限することは許されず、その制約については、憲法が労働基本権を保障した理念に照らし、具体的、個別的に慎重に検討し、判断する必要がある。そして、その判断にあたつては、いわゆる最高裁全逓中郵事件判決が掲げた次の四条件が判断の基準として考慮さるべきである。

(イ) 労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すると、その制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきである。

(ロ) 労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いもので、その停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについては、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきである。

(ハ) 制限違反者に対して課せられる不利益については必要な限度を超えないように十分配慮せられるべきである。

(ニ) 職務または業務の性質上、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならない。

2 公労法第一七条第一項と憲法第二八条

(1) 公労法第一七条第一項は、「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員並びに組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、もしくはあおつてはならない」と規定している。そして、この規定をその文言どおりに解釈すれば、公共企業体等職員の職務の公共性の強弱ならびにその職務の停廃が国民生活に及ぼす傷害の程度にかかわりなく、全ての公共企業体等の職員の、あらゆる争議行為を、一律かつ全面的に禁止しているものと解さざるを得ず、であるとすれば、右規定は、公共企業体等の職員の労働基本権を保障した憲法の趣旨に反し、労働基本権に対する制限は必要やむを得ない場合に、かつその制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきであるとの要請に反し、右限度を超えて争議行為を禁止したものとして、違憲の疑いを免れない。

(2) しかしながら、三権分立の精神に照らし、裁判所が違憲立法審査権を行使する場合には、慎重でなければならず、法規の解釈は、能う限り憲法の精神に適合もしくは調和するよう合理的に解釈すべきである。右見地に立つて、公労法第一七条第一項について、前記中郵事件判決の指摘する(イ)、(ロ)の基準に従い、合理的な解釈を施せば、同条項は、職務又は業務の性質上国民生活と密接なかかわりあいを有するため、その職務もしくは業務が公共性の強い職員の、争議行為の種類、規模、態様により公共性の強い職務に停廃を生じ、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす顕著なおそれがあり、禁止以外の他の手段、方法による制限によつては、そのおそれを回避することができない争議行為に限つて、これを禁止したものと解すべきである。

もつとも右のような合理的限定解釈については批判がないわけではない。その第一は、右の如き解釈はあまりにも条文の文理解釈とかけはなれ、それはもはや解釈の域を超えて、立法作用を営むことにならないかという点であり、その第二は、憲法の保障する基本的人権を制限することはきわめて重大なことであるから、その制限の基準は明確でなければならないのに、右解釈のいうところの制限の基準たる「国民生活に対する重大な障害」という概念は、基本的人権の制限基準としての明確性に反しないかという点である。なるほど合理的限定解釈に対する右批判には傾聴すべきものがあり、当裁判所も右批判の如き疑問を有していることを表明することにやぶさかではない。とりわけ制限基準として設定した「国民生活に対する重大な障害」といつても具体的にどのような場合がそれに該当するのか、解釈者の主観によつてその判断が区々になることは十分予想され、労使間で、あるいは争議行為を行なう労働者個々人間においても、側が禁止された争議行為であるかの判断につき、紛糾を招き、いたずらに労使関係等を混乱させる契機を内包していると評価しえないでもない。しかしながら、終戦後旧労組法、旧労調法によつて解放されていた公共企業体等職員の争議行為が、昭和二三、四年にわたつてマッカーサー書簡を契機として公布施行された政令第二〇一号、公共企業体労働関係法(その後今日の名称に改められた。)等により一転して禁止されるに至つた立法の沿革に徴すれば、従来無制限であつた公共企業体等職員の争議行為を国民生活に及ぼす影響の程度いかんにかかわらず、全面一律に禁止しなければならなかつた程の立法事実が存したかについては大いに疑問の存するところであり、公労法第一七条第一項の解釈につき、その文言通りの、一義的な解釈以外に他の解釈があり得ない程に、立法の沿革及び立法趣旨上明確であるとはいえない。又、公労法第一七条第一項は、国公法あるいは地公法におけると異り、争議行為禁止違反に対する刑事制裁に関する規定を欠いていること、即ち同条項は刑罰法規としての性質を有しているわけのものでもないこと、及び禁止さるべき争議行為の一層の具体化、明確化は判例の集積によつて可能であることなどの事情に鑑みるときは、基準の不明確性をいう前記批判は、必ずしも公労法第一七条第一項の前叙の如き合理的限定解釈に妥当しないものというべきである。

3 まとめ

以上のとおり、公労法第一七条第一項は、これにより禁止される争議行為の範囲を限定的に解する限り、右規定は憲法第二八条の趣旨に反するものとはいえないから、右規定をもつて違憲無効のものとすることはできず、この点に関する申請人らの主張はこれを採用しない。

(二)  本件争議行為は、公労法第一七条第一項の禁止する争議行為に該るか。

1 国鉄職員の争議行為と公労法第一七条第一項

(1) そこで(一)2(2)で述べた基準に従い、国鉄職員の争議行為につき、なお具体的にその可否を論ずる。

(2) 国鉄の業務

(イ) 国鉄は、国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営により、これを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的とする公法上の法人である(日鉄法第一、二条)。そして右目的を達成するため具体的には、鉄道事業及びその附帯事業の経営、鉄道事業に関連する連絡船事業及びその附帯事業の経営、鉄道事業に関連する自動車運送事業及びその附帯事業の経営等を行なう(同法第三条)。国鉄の資本金は、政府が全額出資し(同法第五条)、その予算は、国の予算の議決の例によるものとされ(同法第三九条の九)、その会計は、会計検査院が検査する(同法第五〇条)。国鉄の代表者たる総裁は、内閣が任命し(同法第一三条第一項、第一九条第一項)、国鉄の監督は、運輸大臣が行ない(同法第五二条)、運輸大臣の任命する委員からなる監査委員会が、その業務を監査する(同法第一四条、第一九条第三項)。

又国鉄の鉄道等の運賃については、公正妥当なものであること、原価を償うものであること、産業の発達に資すること、賃金及び物価の安定に寄与することが要求され(国鉄運賃法第一条第二項)、鉄道の普通旅客運賃、航路の普通旅客運賃、車扱貨物運賃の運賃あるいは賃率については、立法事項とされ(同法第三条、第四条、第七条二項)、その余の運賃についても国鉄が定めることとされてはいるものの、その範囲につき法律上の制限が付されていたり、運輸大臣の認可を要件としている(同法第五条、第六条、第七条第三項、第九条の二)。

右の如き国鉄の組織及び運営形態に鑑みれば、国鉄の行なう業務は公共性の強い業務であることが推測される。

(ロ) しかして、国鉄業務の実体についてみれば、その基幹業務たる鉄道事業の地域的業務範囲は、全国津々浦浦にわたり、一地方住民の輸送の便益に供される私鉄業務とは、その業務範囲に格段の差異を有しており、又一地方の輸送を業務内容とする私鉄に比し、国鉄は、全国主要幹線を独占する点において長距離輸送に特異な輸送能力を発揮し、私鉄輸送が他の輸送機関ないし手段によつて容易に代替可能であるのに対し、国鉄の長距離輸送にあつては、その代替が他の輸送機関ないし手段によつては著るしく困難となるか、もしくは不可能となることも又同様であり、この点において私鉄の輸送能力とは質的ともいうべき差異を有していることは公知の事実である。

又、国鉄の輸送量についてみれば、本件争議行為の行なわれた二年前である昭和四四年において、旅客輸送が一、八一五億人キロ、貨物輸送が六〇二億トンキロであり、国内の総輸送量に対する比率は前者が三四%、後者が一九%に該るところ、その比率は国鉄設立翌年の昭和二五年当時前者が六〇%、後者が五一%であつたのに比し、大幅に減少しているが、絶対量は昭和二五年当時と比較し前者において約三倍、後者において約二倍となつていることは当事者間に争いがない。右事実によれば、国鉄の輸送量の面からみた占有度(独占度)は設立当初に較べ大幅に減少しているとはいえ、国内輸送量の中で占める比重には多大なものがあり(とりわけ旅客輸送)、その絶対数及び輸送網の範囲を併せ考慮するときは、いまだ国鉄の輸送業務は、国内輸送における中枢的地位及び独占性を失つていないものといわざるを得ない。

(ハ) ところで、社会・経済生活上、国民の活動範囲が広範囲にわたり、地域的結びつきが有機的に緊密な関係に立つ現代社会にあつては、輸送の果す役割は果しなく大きく、重要である。それは社会・経済生活の根幹をなしているといつても過言ではなく、社会生活のあらゆる分野がそれに依存していることは顕著な事実である。

してみれば、国内輸送において輸送量及び輸送範囲共に中枢的地位を占め、とりわけ長距離輸送を独占する国鉄の輸送業務は、その停廃の規模、態様のいかんによつては、国民生活に重大な障害をもたらすのみならず、社会経済生活上深刻な打撃を与えかねないのであつて、国民生活と極めて密接不可分な関係を有し、その義務の実体についても公共性の強い業務であるといわざるを得ない。

(3) 国鉄職員の争議行為の制約とその基準

(イ) (2)でみてきたところから明らかなように、国鉄の基幹業務である輸送業務は、旅客輸送、貨物輸送を問わず、国民生活と密接不可分に関係しているため、国鉄職員のなす争議行為は、当該職員の職務の輸送業務との直接性、密接性の度合により、単純な労務不提供の形でなされる場合においても、それが長時間かつ大規模に行なわれるときは、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす場合のあることを否定できない。

(ロ) ところで、公労法第一七条第一項によつて禁止される国鉄職員の争議行為は、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす顕著なおそれがあり、禁止以外の他の手段、方法等による制限によつては、そのおそれを回避することのできないものに限られることは、前叙のとおりである。そこで右基準に従い、なお具体的に国鉄職員のいかなる争議行為が公労法第一七条第一項で禁止さるべき争議行為に該るかを検討することとするが、その場合に、国鉄職員の争議行為から保護さるべき国民生活全体の利益とは、国鉄職員の労働基本権と正当に対置さるべきものであつて、単に国民が迷惑を蒙るといつた程度のものでは足りないことに留意すべきである。

右見地に立ち、国鉄の業務、とりわけその輸送業務の特質に鑑みるときは、国鉄職員の、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす顕著なおそれのある争議行為は、多数の国民が列車運行の阻害により蒙る損害の回避ないし回復に支障を生ずる行為であるか否かを判断基準として決すべきである。以下これを具体的に述べれば次のとおりである。

第一に争議行為の時間が相当長時間に及ぶ場合である。時間は不可逆的であり、従つて、厳密に言えば、一旦失われた時間は回復不能であるが、国民の日常生活は時間に従つて営まれているとはいえ、一般的にはある程度の柔軟性を有している。従つて短時間の列車の遅延ないしその範囲での列車の運休は一般的にはこれによつて蒙る損害を容易に回避ないし回復することができるから、このような争議行為は国民生活に重大な障害をもたらす争議行為であるとはいえない。

次に広範囲にわたる争議行為、あるいは広範囲に影響を及ぼす争議行為である。この種の争議行為は、それ程長時間にわたらなくても、列車運行の連鎖性から甚しく運行を阻害することがあり得るのであり、又他の輸送機関ないし手段による代替を不可能にさせるか、もしくは著るしく困難にさせるからである。殊に長距離列車の著るしい運行阻害は、後者の点において国民生活に重大な障害を及ぼすものというべきである。ただこの場合にも注意すべきは、広範囲に影響を及ぼす争議行為であつても、それが短時間に終わるような場合には、いかに多数の国民が迷惑を受けたとしても、それは迷惑の総和にすぎず、その被害の回避ないし回復が容易である限り、このような争議行為を禁止し得ない。

なお、暴力または威力を用いるなどして積極的に列車の正常な運行を阻害する行為が、禁止さるべき争議行為に該ることはいうまでもない。

2 本件争議行為の評価

既に一で説示してきたところから明らかなように、国労組合員は列車の運行ないしはこれと密接に関連する業務に従事しているのであるから、その担当職務はきわめて公共性の強い職務といわなければならない。

ところで、右の如き公共性の強い職務に従事する国労組合員の本件争議行為は、国鉄史上始まつて以来の最大規模のストライキといわれた。先づその争議行為継続時間において、五月二〇日午前零時のストライキ突入から同日午後七時頃にストライキが中止されるに至るまで約一九時間間断なく行なわれ、ストライキ中止後も旅客列車において正常ダイヤに復するにはなお相当の時間の経過を必要とし、五月二〇日は終日その運転ダイヤが乱れたのみか、貨物列車においては正常ダイヤを回復するのに翌二一日以降相当時間の経過を必要とした。従つてストライキ継続時間は約一九時間とはいうものの、ストライキ中止後の影響をも考慮にいれるときは、国鉄の輸送機関を利用する一般国民はほぼ全一日の同機関の利用を奪われたと評しても過言ではない。しかして一般的には国民の日常生活は一日を単位として営まれているというべきであるから、ほぼ全一日にわたるストライキによつて国民がその日のうちに失われた時間を回復し得ない以上、一般国民は失われた時間によつて蒙つた損害を回復するのに支障を生じたものというべきである。

又、本件争議行為の態様、範囲についてみれば、本件ストライキは東は東北地方の一部から西は関西地方に及ぶまでの範囲にわたつて、従来とられてきた拠点のみのストライキにとどまらず、線区別にほぼ全職場において統一的に行なわれ、とりわけ東京及びその周辺においては朝夕のラッシュ時にわたつてストライキが継続されたため、長時間の争議行為継続とあいまつて、前記一(三)2に述べたとおり多数の運休、遅延列車を生じ、極めて多数の国民(東京地本関係で約八〇〇万人)が本件争議行為により影響を受けた。しかして本件ストライキの行なわれた範囲の右の如き広範囲性は国民をして他の輸送機関ないし手段による代替を困難にしたものといわざるを得ず、とりわけ前記一(二)、(三)に認定の事実によれば相当数の中長距離列車の運行が阻害されたことが推認されるところ、この種列車の運行阻害は長時間のストライキ継続と相まつて他の輸送機関ないし手段による代替を不可能にした点で決定的である。

してみれば、本件争議行為は長時間、広範囲にわたり行なわれた結果、多数の正常な列車の運行を著るしく阻害し、ひいては多数国民の生活に重大な障害をもたらしたものとして公労法第一七条第一項で禁止する争議行為に該るものといわなければならない。申請人らのこの点に反する主張は採用の限りでない。

3 申請人らの行為の公労法第一七条第一項該当性

(1) 公労法第一七条第一項後段にいう「共謀」とは、複数の者が同項前段に規定する違法行為を行なうため、共同意思のもとに、一体となつて互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をすることであり、「そそのかし」とは、同項前段に規定する違法行為を実行させる目的をもつて他人に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることであり、また、「あおり」とは、右と同様な目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、あるいはすでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることであると解するのが相当である。

ところで「本件争議行為の実情」の項で述べたところから明らかなように、本件争議行為は国労の全国大会、中央委員会あるいは地方における本部以下の各下部機関における大会、委員会等の決議を経て、最終的には第九三回春闘総決起拡大中央委員会によつてその大綱が決定され、右大綱に従つて中央執行委員会が全国戦術委員長会議等の会議を経てその具体化を徐々に決定し、最終的に指令第二二号をもつて本件ストライキの具体的な指令を発し、地方本部以下の下部機関が各種会合を開催し右中央委員会の指令ないし決定を了承したうえ右指令ないし決定の範囲内においてこれらを実施するための細部にわたる具体化を決して本件争議行為が遂行されたものである。従つてこれら一連の過程は本件争議行為に向つての謀議の過程であり、一連・一体のものとして評価され、これら一連の過程で行なわれた協議の一部に加わつた者も又本件争議行為を謀議した者に該るものというべきである。この場合中央本部機関以外の各下部機関ないしは会議が本件争議行為の指令権ないし決定権を有しないとしても、そのことは各下部機関を構成する者ないしは会議参加者に本件争議行為の謀議の責を負わせる障害事由とはなり得ない。けだし各下部機関ないしは会議の協議の結果は争議行為の指令権ないし決定権を有する中央本部機関の争議行為決定に多大の影響を及ぼすことは十分推測されるところであり、一旦本部機関の決定がなされるとそれに拘束されるとはいえ、右決定の範囲内において各下部機関はそれを実施するための具体化を決定する権限を有しているからである。

(2) 右に述べたところに従い申請人らの公労法第一七条第一項後段該当性につき述べれば、次のとおりである。

(イ) 申請人小松千里

同申請人の一(四)(2)(1)の行為は本件争議行為の共謀に該当する。

(ロ) 申請人平井弘治

同申請人の一(四)3(1)の行為は本件争議行為の共謀に、同(2)(イ)の行為は本件争議行為のあおり又はそそのかしに該当する。

(ハ) 申請人長坂正昇

同申請人の一(四)4(1)の行為は本件争議行為の共謀に、同(2)(イ)、(ロ)の各行為はそれぞれ本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

(ニ) 申請人岡田勲

同申請人の一(四)5(1)の行為は本件争議行為の共謀に、同(2)(イ)、(ロ)の行為は本件争議行為のあおりまたはそそのかしに、同(3)(イ)の行為は事務係職員に向け不就労を求めたものとして本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

(ホ) 申請人長島茂夫

同申請人の一(四)6(1)(ロ)の行為は本件争議行為の共謀に、同(ハ)、(ニ)の各行為はそれぞれ本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

(ヘ) 申請人久下守

同申請人の一(四)7(2)の行為は本件争議行為の共謀に、同(3)(イ)、(ロ)の各行為は本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。

(三)  解雇権濫用の成否

1 公労法第一八条は、同法第一七条の規定に違反する行為をした職員は「解雇されるものとする」と規定しているが、その法意は、職員の労働基本権を保障した憲法の根本精神に照らし、一律的な解雇の必要を規定したものと解すべきではなく、「解雇することができる」とする趣旨であり、解雇するかどうかは、公共企業体等が職員のした違法行為の態様・程度に応じ合理的な裁量に基づいて決すべきものとする趣旨に解するのが相当である。

2 そこで、右公労法第一八条の趣旨に基づき、申請人らに対する本件解雇の効力につき判断する。

(1) 申請人小松千里、同平井弘治、同長坂正昇、同岡田勲関係について

本件争議行為は、前説示のように、主として二つの目的を掲げて行なわれた。即ち、一つは国鉄職員の賃金引上げ要求であり、他の一つは生産性運動の中止及びこれにともなう不当労働行為の根絶を求めることにあつた。

前者については、国鉄当局は本件争議行為突入直前まで合理化事案の解決がつかない限り、賃上げについての実質的な交渉には応じられないとして国鉄側の賃上げ要求に対する回答を避け続けた。国鉄当局のとつたこのような態度については当時国鉄財政が極度に悪化していた背景に鑑みるときは、必ずしも不当であつたとはいえないが、右合理化事案の中には早急な解決が困難なものも含まれていたのであつて賃上げという比較的早期解決の望まれる問題につき合理化事案先決をあくまでも堅持した国鉄当局の態度には多少疑念をさしはさむ余地もあつたものというべきである。もつとも前記一に認定の事実によれば、国鉄当局の賃上げ要求に対する有額回答の有無が本件ストライキ決行を左右したとは必ずしもいえないことがうかがわれ、本件賃上げ問題を処理するにあたつて、国鉄当局に多少責むべき点があつたとしても、そのことが本件争議行為突入に及ぼした影響は僅少であつたと思われる。これに反し後者については、国鉄当局側に責むべき点のあつたことは否定できない。もともと生産性運動が企業の合理化によつて生産性を高めることを主眼とし、一面において労使の協調を説く以上、国鉄当局の主張する企業合理化に反対し、国鉄当局と対立していた国労、動労が右運動の批判の対象となることは、右運動推進の必然的結果であつたと評価しても過言ではない。そして右運動の理念そのものは純粋性を有し、直接には不当労働行為とは結びつかないとしても、右運動の推進は、その歪められた認識により国鉄の末端機構において、右運動推進に熱心なあまり国労、動労を嫌悪しその弱体化を計る動きを生じさせ、既にみてきたような不当労働行為を生み出すに至ることも又ある意味では容易に認識し得たともいえる。しかるのみならず国鉄当局は、右運動の推進にあたり不当労働行為は行なわない旨を確約しながら不徹底な態度に終始したため、末端機構における不当労働行為は依然として衰えを見せなかつた。このことは国労、動労側にしてみれば極めて重大な事態であり、脱退組合員が続出していつたことは組合側にとつて耐え難き事態であつたことは容易に理解しうるところである。本件争議行為において国労、動労を除く他の公労協各組合が遅くとも五月二〇日午前一〇時頃にはストライキを収拾したのに、なお国労、動労のみが同日午後七時頃までストライキを継続したのはまさに生産性運動に伴う不当労働行為の問題があつたからにほかならなかつた。換言すれば不当労働行為の問題が発生していなければ、同日午前一〇時頃以降のストライキ継続はあり得なかつたということができる。してみれば、同日午前一〇時頃以降のストライキ継続については、自ら責むべき事情によりこれを誘発した点において、国鉄当局側にもその一半の責任があることを否定することはできず、他面国労、動労がストライキを継続したことについては、その動機において宥恕すべき点があつたものといわざるを得ない。

しかしながら、国労、動労が生産性運動に伴う不当労働行為問題を処理するにあたつては、あえて本件の如き違法な争議行為に訴えなくとも、他に有効、適切妥当な処理の方法が存したはずであり(既に「生産性運動をめぐる情勢の推移」の項で認定したとおり、現に本件争議行為によつてもこの問題の解決はつかなかつたのであり、結局後日他の手段により問題の解決をみているのである。)、一方本件争議行為はその規模において従前の争議行為とは比較にならぬ程大規模なものであつて(この事実は、〈証拠〉により一応認められる。)、本件争議行為の国民生活に及ぼした影響も又重大であつたというべきである。しかして国労東京地本上野支部は八〇〇〇余名の組合員を擁する東京地本内で新橋支部に次ぐ大支部であり、その動向は本件争議行為の中心となつた東京地本はもとより国労本部に対する影響力にも軽視すべからざるものがあると推測されるところ、申請人小松千里は同支部書記長として、申請人平井弘治、同長坂正昇、同岡田勲は同支部執行委員として本件争議行為の計画に参画し、同支部における本件争議行為の実施にあたつて指導的役割を果した(指導的役割を果した点については同申請人らの役職及び前記一(四)1ないし5に認定の事実から推認される。)のみか、同支部内の割当てられた現地における組合側の最高責任者として本件ストライキの指導、遂行の任にあたつたものであることに鑑みるときは、前記本件争議行為における動機の点での斟酌すべき事情等を考慮しても、なお右申請人ら四名に対する解雇が合理性を欠き、裁量の範囲を逸脱したものとは必ずしもいえないものといわざるを得ない。

(2) 申請人長島茂夫、同久下守関係について

申請人長島茂夫、同久下守(以下申請人両名という。)は、それぞれ分会執行委員長として分会の最高責任者的地位にあるところ、申請人長島茂夫は一(四)6(1)(ロ)に述べた態様で、申請人久下守は一四7(2)に述べた態様でそれぞれ本件争議行為の計画に参画した。又申請人両名の分会における地位及び一(四)6、7で述べた同申請人らの各行為に照せば、申請人両名がそれぞれ各分会において本件争議行為遂行の指導的役割を果したことを推認するに難くない。ことに、申請人久下守は本件争議行為の大綱が決せられるに至るまでの主要な会議である全国大会、各中央委員会に出席してその決定に参画しており、又申請人長島茂夫は本件争議行為にあたり就業中ないしは仮眠中の誘導掛職員四名を他の組合員とともにその意に反して就労を放棄させる行為に及んでいる。

しかしながら〈証拠〉によると、申請人両名は申請人小松千里ほか三名と異なり組合役職に専従していないことが一応認められるところ、本件争議行為決行の主要な動機となつた生産性運動にともなう不当労働行為等については職場において直接見聞していたものと推測され、国鉄当局に対する怒りは、申請人両名においてより一層強かつたものと思われるところ(隅田川駅における状況に照らせば特に申請人久下守においてしかりである。)、生産性運動にともない不当労働行為が発生したことについては国鉄当局側にも非難すべき点のあつたことは前記(1)に述べたとおりである。

しかして申請人長島茂夫は本件争議行為の計画に参画したとはいえ、本件争議行為の決行が具体化する大分以前の昭和四五年一二月八、九日に開催された上野支部第六五回定期支部代議委員会に出席しただけであり、誘導掛四名の就労を放棄させた行為についても、その際多少有形力が行使されたことが認められても、さほど強力に行使したわけでもなく、右行為によつて四名の職員が就労を放棄させられた時間も約三時間から四時間半にとどまる。又申請人久下守が全国大会、各中央委員会に出席し、その決定に参画したとの行為についても、〈証拠〉によれば、全国大会の代議員総数は四四九名、中央委員会を構成する中央委員は九一名であることが一応認められるところ、同申請人は全国大会あるいは各中央委員会の多数出席者のうちの一名にすぎなかつたともいえる。そして前記一(四)6、7に述べた申請人両名の集会での演説ないしデモ行進の指揮は〈証拠〉によれば、争議行為に際して通常いずこでも行われる行為であることが一応認められ、その対象も分会所属組合員に過ぎないことに鑑みれば、特に申請人両名の右行為をとらえてその責任を追及することに合理性を見出し得ない。

又申請人両名はそれぞれ分会執行委員長として本件争議行為において各分会の指導的役割を果したといつても、分会は国労の最下部機関であり、かつ申請人両名の各分会にはそれぞれ上野支部から現地最高責任者として申請人岡田勲あるいは同長坂正昇が派遣されていたのみならず、当時上野支部には六〇数分会が所属していたのであり、又〈証拠〉によれば、解雇されたのは申請人両名のみであること、しかして本件争議行為に関する会議への出席状況についても他の分会執行委員長と差のないことが一応認められるところ、前記申請人両名の各行為の態様、程度に照らしても、申請人両名のみを解雇に付さなければならない程の特段の事情も見出し難い。もつとも申請人久下守の所属していた隅田川駅分会が対応する国鉄の職場である隅田川駅は貨物取扱駅としては東京都内でも有数の駅であつたことから、同駅における職場放棄は、同駅取扱貨物列車相当の貨物輸送阻害の一原因となつたとはいえるが、本件争議行為は線区別に全職場で行なわれたものであつて、その全責任をあるいはその主要な責任を同分会に負わせ、その結果同分会執行委員長としての同申請人の責任を問うことは、必ずしも合理性があるとはいえない。同様のことは申請人長島茂夫の所属する大宮機関区分会についてもいえることである。

のみならず、〈証拠〉によれば、国労は昭和四七、四八年とそれぞれ春闘に際して本件争議行為と同様の態様、方法により本件争議行為を上まわる規模のストライキを行なつたが、右両年度とも被解雇者中に一名の分会執行委員長も含まれていないことが一応認められ、右事実によれば申請人両名に対する本件解雇の妥当性を疑わせるに十分である。

以上みてきたように申請人両名の本件争議行為に参画した動機、国鉄当局側にも本件争議行為に原因を与えた点で一半の責任があること、申請人両名の行為の態様、程度、他の本件争議行為参加者との比較等に鑑みるときは、申請人両名に対する本件解雇は、合理性妥当性を欠き、合理的な裁量権の範囲を著しく逸脱したものとして、無効といわざるを得ない。

(四)  不当労働行為の成否(申請人小松十里、同平井弘治、同長坂正昇、同岡田勲関係)

申請人小松千里が国労東京地本上野支部書記長であること、申請人平井弘治、同長坂正昇、同岡田勲が同支部執行委員であることは前記のとおりであり、前記一に認定の事実によれば、国労は国鉄当局とは合理化問題、生産性運動をめぐつて対立関係にあつたことは明らかであるが、右申請人ら四名が本件争議行為を共謀し、あおりもしくはそそのかしたことを併せ考えるときは、右申請人ら四名に対する本件解雇が同申請人らの組合活動を理由としてあるいは国労の弱体化を企図してなされたものとは認められず、他に本件解雇が不当労働行為であることを認めるに足る疎明はない。

よつて右申請人らのこの点に関する主張は採用の限りでない。

(五)  結び

よつて、申請人小松千里、同平井弘治、同長坂正昇、同岡田勲に対する本件解雇の意思表示は有効であるが、申請人長島茂夫、同久下守に対する本件解雇の意思表示はその余の判断をするまでもなく無効であり、同申請人らは右解雇の意思表示に拘らず、依然として被申請人の職員たる地位を失つていないものというべきである。

第三保全の必要性

一申請人長島茂夫、同久下守が本件解雇の意思表示がなされた当時、それぞれ別表(6)欄記載の賃金を被申請人から毎月二〇日ごとに受けていたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被申請人は右申請人らを解雇したとして昭和四六年七月一六日から同申請人らの就労を拒否していることが一応認められるから、同申請人らはそれぞれ同日以降の別表(6)欄記載の額の賃金請求権を有する。

二〈証拠〉によれば、申請人長島茂夫、同久下守はいずれも被申請人から支払われる賃金を唯一の生計の資としてきたところ、本件解雇によりその収入の途を断たれたが、本件解雇後国労から当時同申請人らが受けていた給与相当額の支給を受け、以降昇給及び給与改訂についても国鉄職員と同様の取扱いを受けていること、しかしながら解雇無効の裁判において勝訴した場合には、右支給金を返還しなければならず、右救済制度によつても解雇中は昇職、昇格がないため国鉄職員の身分と全く同一に取扱われるものではないことが一応認められる。してみれば右給与相当額の支給等も暫定的な措置と認められ、しかも、これらの救済制度も被解雇者を国鉄職員たる身分と全く同一に扱うものではないのであるから、右申請人らに本件仮処分を求める必要性がないとはいえない。

第四結論

以上の次第で、申請人らの本件仮処分申請のうち、申請人長島茂夫、同久下守の申請は理由があるのでこれを無保証で認容するが、その余の申請人らの申請は理由がなく、かつ保証を立てしめて認容するのも相当でないので、これを却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(須賀健次郎 松澤二郎 園田秀樹)

別表〈省略〉

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